犬や猫は工業製品ではなく命です

高速道路を栃木県内のインターチェンジで降りて、さらに10分走る。家並みが途切れだし、山中の寂しい風景が見えるようになった所に、見たことも無い光景が目に飛び込んできた。

所狭しと並ぶ鉄製の檻。
何かに駆り立てられるようにヒステリックに鳴き叫ぶ犬。
何日も洗っていないような異臭。

この異様な空間は、通称「犬の引き取り屋」です。
ペットショップなどで販売する用の犬の繁殖業者(ブリーダー)が、妊娠・出産できなくなった犬や、老犬や障害のある犬など、売り物にならない犬を持ち込む場所です。

1匹当たり数万円の謝礼と引き換えに犬を受け入れている。
さながら、犬の産業廃棄物処理業者です。

「今は柴犬しか居ないよ。10匹くらいかな?随分減った」っと、施設の人間は話す。やせている犬や、思いのほかふっくらした犬もいますが、基本的に老犬ばかりです。

今年5月に、日本動物福祉協会(東京品川区)が、施設の所有者の男性を動物愛語法違反で刑事告発した。男性は、当時150匹もの犬を抱え、餌も十分に与えていなかったとされています。告発を受けた警察署は、捜査に乗り出し、メディアもこの施設の実態を大きく取り上げました。

このようなことがあったため、今ではブリーダーから犬を引き取る際に、動物愛護団体の者と同伴でないと引き渡せないというケースが増えていると言います。ブリーダーが懸念しているのは、おそらく犬の引き取り屋から芋づる式に摘発されることです。愛護団体が同伴すれば、「引き取り屋ではなく愛護団体に渡したつもりだった」と良い訳することもできます。

動物愛護法は、2012年に改正され、2013年に施行されました。改正された内容によると、地方自治体がペットショップや繁殖業者から犬や猫の引き取りを求められた際、拒否することができるようになりました。そのため、犬の引き取り屋のようなグレーゾーンの業者が生まれたのです。

この法律が施行されてから、確かに犬や猫の持ち込みは減少傾向にあります。そしてその効果で、犬や猫の殺処分件数が14年度に10万1388匹だったのが10年前の1/4程度にまで減少しました。神奈川県や熊本市のように、年間の殺処分ゼロを達成した自治体も出てきました。法改正によって、犬や猫の繁殖業者やペットショップが、その命を終えるまで適切に育てる(終生飼養)よう意図したものでもあります。

しかし、実際にはそうした効果は出ているようには見えないのが現状です。それどころか、行政が引き取りを拒否したことで、引取り屋がより劣悪な環境で代替しているのです。

では、この引取り屋に居る犬や猫はその後どうなるのでしょうか。劣悪な環境で檻の中で放置されて死ぬ・・・、しかしこの引き取り業者に関してはそのようなことはないようです。茨城県笠間市にある動物愛護のNPO法人「しっぽのなかま」は、このような引き取り業者から不要犬を引き取る活動を行なっています。

代表理事の佐藤陽子さんは、引き取られた犬の内の1匹だと言って、痩せこけた犬を抱き上げました。「これはイタリアン・グレイハウンドという犬種で、皆イタグレと呼んでいます。本当はもう少し肉付きの良い犬なのですが、ほら、舌も出しちゃってね・・・」口から舌がべろんと出ているのは、長年無理な交配と出産を強いられてきた証拠です。佐藤さんは、別の犬を抱き上げお腹を見せてくれました。その犬のお腹には、ゴムボールのような肥大した腫瘍がいくつかありました。こんなに大きな腫瘍になるまで放置されるとは、この犬はどのような環境で育ってきたのでしょうか。

「しっぽのなかま」は、数十匹の犬を引取り屋から譲り受けてきました。まだ若い犬や、商品価値のある犬にはお金をいくらか払って譲り受けたと言います。若い犬を引き取ったのは、引き取り屋の男性がブリーダーに転売したり、ペットの直売を行なうことが分かっていたからです。

しかし、引き取るのに対価を渡してしまっては、引き取り屋のビジネスに加担してしまっているのではないか?代表理事の佐藤さんは、「そりゃ1円も払いたくない」と言います。タダで譲り受けるにしても、檻が空けばまた新しい犬が入ってくるだけ。しかし、目の前に不幸な犬がいれば、救わずにはいられないと言います。

この団体で保護した犬は、定期的に里親譲渡会を開催し、再譲渡しています。高齢の大型犬や、かみ癖や吠え癖のある犬は、なかなか貰い手が見つかりません。その場合は、この施設が終の住みかとなります。

この施設では、自治体で殺処分寸前だった犬も多数引き取られている。その数は総数100匹にもなります。この施設も、不要となった犬の受け皿と言えます。

埼玉県北西部の国道沿いにある「関東ペットパーク」砂利敷きの駐車場に、次々と車が駐車場に吸い込まれていきます。ここで週に1度、業者向けのペットオークションが開催されています。

売り手は関東の1円ブリーダー。プラスチックケースに詰め込んだ子犬や子猫を、オークション会社のスタッフに手渡します。スタッフは手際よくダンボール箱に詰め替え、箱の側面に品種や性別を記入していく。これらの犬や猫たちは、店頭で「生体展示販売」するためにペットショップの経営者たちが競り落としていく。この日だけで約700匹(犬8割、猫2割)が競り落とされると言います。

みるみるうちにダンボールが積み上げられ、この箱全てに子犬や子猫が詰められている。箱詰めされた子達は、獣医による健康チェックで最期のふるいにかけられます。健康チェックでは、目の角膜に曇りはないか。膝は脱臼していないか。心雑音はないかなどを確認していきます。問題があれば競には出されず、不要子犬・子猫となる。獣医による健診と言うよりも、商品の品質検査と言ったほうが正しい。

これら健診を行なう獣医は、大手ペット保険会社から派遣されています。主だった保険会社は、ブリーダーやペットショップなどのペット流通業者の業界団体・ペットパーク流通協会の賛助会員です。

オークション会場の脇のプレハブ小屋には、檻に入った成犬が2匹。同様に成猫も2匹いた。どちらもブリーダーやペットショップが、年齢や健康上の問題で「販売に適さない」として持ち寄ったものです。

同協会の上原勝三会長は、過去5年間で4993匹の不要犬・猫を引き取ってきました。うち約500匹は、ブリーダーでもある上原会長が直接引き取っています。上原会長は、繁殖現場を見て犬や猫を保護する必要性を感じたと言います。「柴犬のブリーダーをしていたが、健康を害して犬の世話ができなくなっていた。繁殖場は新聞紙と排泄物が層を成し、その傍らに白骨化した犬の死体が転がっていた」と言います。このような惨状では、ペット流通を嫌悪する人が世の中に居るのは当然だと上原会長は感じました。

ブリーダーが経営破綻などで犬を世話できなくなり、犬舎を見捨てて逃げ出すことを、動物愛護団体は「崩壊」と呼びます。半場崩壊状態だった同業者を見て、上原会長は業界として犬や猫のシェルターを作るべきだと考えました。

同協会は、6つの動物愛護団体と協力関係にあります。不要犬や猫をこうした団体を経由して里親家庭にもらわれていきます。また、同協会のペットショップからは、協業愛護団体に対してペットフードの寄付が行なわれていて、持ち持たれずの関係です。

この業界と動物愛護団体は水と油の関係でした。しかし、お互いにけなすだけでは何も変わりません。そう言う上原会長に、疑問を感じた。

そもそも、シェルターや里親探しをしなくても、大量繁殖や生体展示販売をやめさせれば、不要犬や猫は減らせるのではないか。上原会長は「それはありえない」と言います。消費者自身がペットショップでかわいい犬や猫に出会うことを求めているからです。上原会長のような流通業者は、単にこういした消費者の需要に応えているだけで、何か悪いことをしているわけではないのです。

ペット流通の末端であるペットショップでは今、ペットの価格が高騰しています。関東ペットパークでの8月時点でのオークションでの落札価格が、1匹当たり8万8000円。12年度に比べて、約2倍の水準です。これは、ペットショップのプレーヤーが変わったことと関係あります。

2000年代に入り、ペットショップ業界では大手チェーンのシェアが拡大しています。1990年代には、100店規模のチェーンはなかったが、現代ではそういう巨大企業が複数あります。こうした大手は、犬や猫の販売後のクレームを何よりも嫌う傾向にあります。そのため、商品である犬や猫の調達において、各店舗にバラまけるだけの個数を確保すると同時に、見た目が良いか健康かといった品質面にも厳しいチェックを行ないます。
例えば、過去には少々心雑音が入るくらいの犬や猫なら店頭にならんでいましたが、今では店舗側が「商品にならない」とハネるようになったのです。ペットの価格が上昇した裏には、このような品質重視主義の背景があったんですね。

しかし、これが事実だったのなら、「商品にならない」という理由で処分される犬や猫の数が上昇しているということになります。価格高騰を受けて、若い世代が「儲かるから」とブリーダー業に踏み入ることも懸念されています。

家電や食品でも、大量生産・大量販売されるものには必ずサプライチェーンの中でロスが生じます。生産や輸送の段階での不良や傷、需要期を逃したことでの過剰在庫。これらは廃棄や処分の対象となります。しかし、犬や猫は工業製品ではなく命です。

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